全国的にも知られる徳島の阿波おどり。実は私は徳島出身ではありません。仕事の単身赴任で徳島に来ました。
それまでの阿波おどりに対するイメージは、「大勢の人が同じ踊りを踊る有名なお祭り」という程度。ところが実際に見てみると、印象は大きく変わりました。
連によって踊り方も違えば、衣装も違う。音にも演出にも個性がある。「阿波おどり」とひとまとめにしていたものの中に、想像以上に深い世界がありました。
阿波おどりでは、踊りのグループを「連」と呼びます。
面白いのは、この連ごとに個性が大きく違うことです。踊り方はもちろん、衣装や隊列、演出にもそれぞれ特徴があります。
例えば、有名連のひとつ「天保連」。豪快な男踊りの「剛」と、しなやかな女踊りの「柔」を特徴とする連です。
なかでも印象的なのが、女性によるうちわ踊り「天宝の舞」。紫の浴衣に黄色いうちわを持ち、蝶が舞うようなしなやかな踊りを見せます。
一方で、女踊りといっても、すべてが同じように優雅なわけではありません。連によってテンポや動きは異なり、軽快で躍動感のある踊りを見せるところもあります。
最初は「阿波おどりの踊り方」というひとつの型があるものだと思っていました。ところが見比べていくうちに、「この連の踊りは好きだな」と感じるようになります。
初めて見る人も、連ごとの違いを意識すると、阿波おどりの見え方が少し変わってくると思います。
阿波おどりを支えているのが、鉦や太鼓、笛、三味線などの「鳴り物」です。
録音された音源ではなく、その場で奏でられる音に合わせて踊り手が進んでいきます。
そして、阿波おどりの音を語るうえでよく耳にするのが「ぞめき」という言葉です。
阿波おどり特有の軽快なリズムを表す言葉として使われますが、どの連も同じ音で踊るわけではありません。
テンポや音の重なり方、鳴り物の見せ方には連ごとの個性があります。
踊り手の後ろから鳴り物が登場することもあれば、演舞の構成によって見せ方が変わることもある。
阿波おどりは、踊りだけを見るものではありません。
音まで含めてひとつの演舞なのだと、実際に見ていると感じます。
阿波おどりには有名連だけでなく、企業や団体などが結成する「企業連」もあります。
企業連が有名連の踊り手や鳴り物のサポートを受け、一緒に演舞することもあります。
技を磨き続ける有名連がいる一方で、企業や地域の人たちも踊り手として参加する。
見る人と踊る人がきれいに分かれているのではなく、さまざまな立場の人が祭りに関わっています。
徳島に住んでいると、阿波おどりが単なる観光イベントではなく、街の中に根付いた文化なのだと感じる場面があります。
徳島市中心部の演舞場などで行われる阿波おどりは8月12日から15日が中心ですが、前日の8月11日には「匠の舞台 優りび」が開催されます。
2026年の「優りび」では、阿波おどり振興協会と徳島県阿波踊り協会を代表する約600人の踊り手が、アスティとくしまに集結しました。
特徴は、屋内の舞台ならではの演出です。
踊り、鳴り物、照明が組み合わさり、街中の演舞場とは違った形で阿波おどりを楽しめます。
街全体が熱気に包まれる12日から15日の阿波おどりとは、また別の面白さがあります。
「まず技をじっくり見てみたい」という人なら、こうした舞台公演から入るのもひとつの楽しみ方です。
単身赴任で徳島に来た私が感じるのは、阿波おどりは「一度見ればわかる祭り」ではないということです。
連が変われば、踊りも変わる。衣装も、音も、演出も違う。
夏が近づけば街のあちこちから鳴り物の練習の音が聞こえ、本番を迎えると徳島の街そのものが祭りの舞台になっていきます。
県外にいた頃の私は、阿波おどりを「みんなで同じ踊りを踊る祭り」だと思っていました。
今はむしろ、違いを見るのが面白い。
この連の男踊りが好きだ。この衣装が面白い。この鳴り物は格好いい。
そんなふうに見ていくと、同じ阿波おどりでも楽しみ方が増えていきます。
初めて見るなら、踊りだけでなく、衣装、鳴り物、隊列、演出にも少し目を向けてみてほしいと思います。
私自身、徳島に来なければ、ここまで奥深いものだとはたぶん知りませんでした。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」